東京から離れた神奈川県相模原市の南端、小田急相模原駅からほど近い二の橋書店。県をまたいで今回は、下町に端を発する3代目店主・田中領さんからうかがった思い出を手がかりに、文芸の町・東京探しに参ります。第10回は「3代目のクラリネット」。
第10回
3代目のクラリネット
ことし初めて神保町で開かれる神田古本まつりに足を運びました。ビルのすきまに自転車を止め、めざすブースに向かいます。
二の橋書店ブースにいるはずのタヌキさんを見たい一心ですが、人手がありなかなか身動き自由にいきません。
あいにく、田中領さんは別件で代役の方が店番。生来の小心者ですので、背広姿の小生、レジ横に立つタヌキさんの前に立ちどまって話しかけられません。・・・もちろん、店番の方にです。
正攻法として、1冊何か買うことにして、あらためてレジ前に立ちました。代金を払って「タヌキを撮ってもいいですか?」と勇気をだす。店番の方は何でもない様子で「どうぞ」と言ってくれる。シャッターの遅いガラケーのボタンを押す。
二の橋書店で見る時より、おひさまに照らされ実に毛並みが気持ちよさそうです。
あれ? 君はウチの店の来歴を、ネホリハホリ訊ねてくる坊やじゃないか?
── ネホリハホリはひどいですよ〜。坊やでもありません。
ボクがこうしてほら(横の案内を見せ)「幸せの狸」として古本まつりの店番をしていることもメモしておいてくれよナ。
── 幸せのタヌキだからおさい銭を置いて行かれる方がいるンですね。
そのおさい銭は、あとで水道橋の方にある三崎稲荷神社に納めるンだよ。
── そうでしたね。タヌキさんがキツネさんのいる神社にお参りに行くんですね。
間違いがあってはいけないから、ボクはそのあいだ境内の外で待つことにしてる。
※
こうして古本まつり見学を終えましてから何日かが立ちました土曜の夕方、久しぶりにオダサガ(小田急線小田急相模原駅)二の橋書店へと向かいました。寒くなりましたら日が落ちるのが早くなりましたね。店先はまるで昔の東京に出てきそうな夜店の古本屋を思わせる風情。
すでに先客がカウンターでマスター田中さんと談笑中。前に来た時は、窓辺のカゴからスズムシが鳴いていたのを思い出します。
席をとり、コーヒーのあとブランデーをいただく。ちびりちびりとたしなみつつ、立っては棚に近づいてって本の背を眺めては着席に戻ってはたしなむ。これがまた楽しい。
田中領さん、お店の休みには演奏活動もなさってる。黙って売られて行く本を扱う一方で、クラリネット奏者という顔を持つ二の橋書店・3代目店主であります。
すでにお店の閉店時刻が近づくなか、常連の方から田中さん参加する杉並公会堂で年に一度開かれるホームコンサートのようすのお話。酔いに任せまして「マスター、ぜひ1曲!」とお願いしましたら、即興ソロコンサートが実現!
本の管理とお茶の接客を一人こなすご苦労はたいへんなことと思います。でも、3代目の奏でるクラリネットはとても活き活きとした音色でした。
ホームコンサートでの田中領さんを描いた絵があります。心のこもった絵です。ハガキに手が不自由だという方が記憶を頼りに描いて下さった。田中さんはそれを大切に飾っています。(了)
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古書 二の橋書店
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★「日本の古本屋」
https://www.kosho.or.jp/abouts/?id=12031730
文責・板垣誠一郎
〈2017年8月配信開始!〉 東京へやや遠くなりぬ 二の橋書店 ── 3代目・田中領さんにきいた思い出ばなし
投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部
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