東京から離れた神奈川県相模原市の南端、小田急相模原駅からほど近い二の橋書店。県をまたいで今回は、下町に端を発する3代目店主・田中領さんからうかがった思い出を手がかりに、文芸の町・東京探しに参ります。第3回は「本所深川の二の橋」。
第3回
本所深川の二の橋
──お店の発祥地、東京・深川にある二の橋を見つけに出向きます。本郷から神田を過ぎ、長い両国橋を渡りまして高速道路の下をくぐったら、大江戸線が地下を走る清澄通りへ。まず目指したのは江戸深川資料館。名前からして二の橋をご存じかとの安直な考えでありまして。
君みたいな人のために、専門員がいただろう?
──そうなんです。専門員の方に二の橋を探しているので教えて下さいと申し上げました。すると1枚の地図をバッと目の前に広げます。
ずいぶん用意のいい所だねえ。それでその地図に二の橋が描いてあるんだね?
──私もそう思いましたよ。二の橋の場所を訊ねたら地図を広げて下さるンですから。でもね、これがちょっと風変わりでして。
二の橋に限って探している君も風変わりなんだけどね。
──地図というのは、これでして。
わざわざ買ったの? すごいねエ、手書きじゃないか。
──手軽なお値段で売られているんですよ。深川江戸資料館謹製、文久二年本所深川絵図が刷られた、お土産用のハンカチーフなんです。
文久二年って、いつのことだなんだい?
──1862年だそうです。幕末といわれる頃です。
その古い地図に、二の橋はあるんだね?
──専門員の方が指し示した地図の端に「二ツ目ハシ」と記載があります。これのことだそうです。
155年も前の古い地図で2017年の橋を探しに行くなんてサ、ぶらぶらする歴史のテレビ番組みたいだね。
──自分でもそんな気持ちです。ま、古い地図には江戸深川資料館(当時は霊巌地の敷地内)や、他にも清澄庭園、芭蕉記念館、深川佐賀町下之橋際の現在の所在地が判るように加工されています。それがかえって、区画や道が大まかに現在と変わっていないんだなアと思わせます。
江戸の面影を追って、現在の東京散歩かい。それで、二の橋に行けたんだろう?
──資料館から清澄通りを直進して行った先に二の橋を見つけました。実は、さっきも通っていたんです。
知らないで二の橋を渡っていたんだね。
──はい。そういう訳でありまして。しかもこの通りは何度か通っていました。ふだんから橋の名前を気にしていない証拠です。
そんなもんだろう? 橋は架かってて当たり前。ハナからそこにあるんだ。何を疑えっていうんだい。
──二の橋付近には、小林一茶居住の地だったことや、池波正太郎『鬼平犯科張』に度々この橋が出てくるという案内板があります。
《大川へながれこむ掘割の堅川に、夕陽がにぶく光っていた。/佐嶋忠助は、わき目もふらずに二ツ目橋をわたり、深川へ向う道を進む》‥‥なんて、鬼平に書いてるサ。(池波正太郎「浅草・御厠河岸」より、『鬼平犯科張1』文春文庫)
──よくご存知で。この江戸の面影残す東京下町深川の、二の橋の名にあやかって、この辺りに二の橋書店を開業したそうです。初代は田中義夫さん。今のご店主のおじい様ですね。
せっかく深川まで来たんだから、もう少しまわってみようじゃないか。ボクが案内するよ。
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紹 介
古書 二の橋書店
〒252-0312
神奈川県相模原市南区相南
4丁目1−31
小田急相模原駅 南口(小田急線)徒歩4分
イトーヨーカドー 大通 向かえ側
tel:042-749-9345
https://ninohashi-shoten.jimdofree.com/
★「日本の古本屋」
https://www.kosho.or.jp/abouts/?id=12031730
文責・板垣誠一郎
〈2017年8月配信開始!〉 東京へやや遠くなりぬ 二の橋書店 ── 3代目・田中領さんにきいた思い出ばなし
- 第1回 東京から離れた町・オダサガ
- 第2回 守り神のタヌキさん
- 第3回 深川の二の橋
- 第4回 江戸の大火
- 第5回 目録『戦塵冊』
- 第6回 俳人・田中よし雄と二の橋
- 第7回 浅草の俳書室(1)
- 第8回 浅草の俳書室(2)
- 第9回 町田パッション
- 第10回 3代目のクラリネット
投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部
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