東京から離れた神奈川県相模原市の南端、小田急相模原駅からほど近い二の橋書店。県をまたいで今回は、下町に端を発する3代目店主・田中領さんからうかがった思い出を手がかりに、文芸の町・東京探しに参ります。第2回は「守り神のタヌキさん」。
第2回
守り神のタヌキさん
二の橋書店がカフェを兼ねるようになって、奥にお店を見守る置き物に目が行きます。
福助、だるま、そしてタヌキさん。なかでも目立ちますのがタヌキさん。二足でひょと立って、大きい徳利を片手に下げて、笠を背につけてる姿は愛くるしい。客席の方をうかがって、誰が何の本を手にとっているのか、コーヒーを頼んでいるのかうかがっているようです。
神奈川県の厚木まで本の買い取りに、二の橋書店が出向いた先で出会った仲で、もう古い付き合い。東京のお店といえども、お客さんとの縁つながりで日本各地に出向いたものなんですね。
山からひょこひょこ軽い足どりで本と一緒に東京へやって来て以来、タヌキさんはお店の守り神。徳利には丹沢の水が流れる中津川でくんだ水かそれで作ったお酒でも入れているのか、ちょっと息抜きしてったら‥‥って、声をかけているかのよう。
──そんなに急いでどこに行くんだい? ほぅら雨が降って来たじゃないか。僕は笠をしてるけど、君は持っていないのかい? ならそこで雨宿りして行くといいさ。夜までやっているからサ。カラン‥‥。なかなかいい所だろう? そこのカウンターに座っておくれよ。僕がコーヒーを一杯、ごちそうするヨ。
──マスター、こちらにコーヒーね。僕はこの徳利の水で飲むウイスキーが好きでね。ちびりちびりやりながら、ここで本を読んでいるよ。笠をかむったら、タヌキだってばれやしないサ。もちろんお客のいない、マスターも店を閉めてお宅に帰ってから夜明けまでだよ。タヌキだって本は好きだよ。嘘じゃアないさ、ねぇ、マスター?
二の橋書店は東京の古書店組合に入っていて、青空古本まつりにも出展しに行くわけですが、実はそこにタヌキさんも同行して呼び子さながらのご活躍。Twitterに写真が出ているようですね。
徳利下げて笠をかぶるタヌキの剥製の物珍しさに、おさい銭を置いてゆくお客さんもあるらしく、1円5円10円とけっこうたまる時もあるそうです。集まったおさい銭はどうするのかといいますと、古本まつりが催される神田の神保町からほど近い、JR水道橋駅近くにある三崎稲荷神社へ奉納をしに行くそうです。
──僕の顔見てお金置いてってくれるんだからありがたいよね。マスターは律儀に近くの神社まで納めに行くからついてくんだけど、稲荷様の神使(みさきがみ)はキツネなんだよね。タヌキの僕に集まるお金をキツネの所に持って行くのも何だか変なもんだけど、向こうは商売の神様でもあるわけだから仕方ない。ちょっとは緊張するけれど、僕は全然気にしていないヨ。
この置物は、二の橋書店が始まった戦前からいるようで、オダサガに越して来てからもガラス張りのお店のドアを開けるとすぐ目に入ったのを思い出します。
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紹 介
紹介
古書 二の橋書店
〒252-0312
神奈川県相模原市南区相南
4丁目1−31
小田急相模原駅 南口(小田急線)徒歩4分
イトーヨーカドー 大通 向かえ側
tel:042-749-9345
https://ninohashi-shoten.jimdofree.com/
★「日本の古本屋」
https://www.kosho.or.jp/abouts/?id=12031730
文責・板垣誠一郎
〈2017年8月配信開始!〉 東京へやや遠くなりぬ 二の橋書店 ── 3代目・田中領さんにきいた思い出ばなし
投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部
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