第10回 補助犬と、ちばわんと、ヒナと。
赤坂の一木通りから曲がって長い坂の通り先に古いお寺、圓通寺があります。
ここは眼病平癒の信仰とからめてこのお寺が出てくる落語噺「景清(かげきよ)」が知られています。
目が見えなくなってしまった男が願かけに百日も通っているのに一向に自分の目が治らない。どうなってンだと観音様、お賽銭いくらになったと思ってンダなんて文句を言っていたら遂に治ってしまうンですから作り話です。
現代の東京で、都心の駅や路上ですれ違う中には白杖頼りに点字ブロックを一つ一つたどって歩く方もいます。
通勤ルートが同じ方がいて、何か手伝えますかと声をかけたら、それでは肩を貸してもらいますって相手も快く応じて下さいました。交差点を過ぎたらちゃんと肩も返してくれます。
これは私めも相手もたまたまタイミングがよいンだと思います。
駅や路上で突然知らない人から声をかけられたら何事か!って思います。まして白杖と点字ブロックを頼りに、駅を、街なかを移動することはどれだけ神経を使うか。想像するだけでも怖いこと。
目の不自由な方がいたら声をかけてみますが、場合によっては相手に心配をかけてしまうものだとも学びます。それは人手のたえない東京ならではのこととも思います。
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やはり通勤の途上で、盲導犬を連れて駅を通う方も見かけます。たくさんの事情を持った人の流れにまじって、一歩一歩を慎重に自動改札を通って行くところです。
はたから見たら、盲導犬は愛らしくもあります。あの体で目の不自由な方からの信頼感を背負っているわけですね。すごい。
信頼感が育まれるまでには相応の訓練が必要なンでしょう。
障碍(しょうがい)を持つ人の助けとなる犬たち。盲導犬、聴導犬、介助犬を補助犬と呼ぶそうです。
この補助犬の存在を社会の中に組み入れる福祉活動のために身体障害者補助犬法が2002年に成立しました。
参考:厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/hojoken/index.html
当時、法律化のために結成された国会議員の会の代表は橋本龍太郎氏。首相在任中にも折を見て金松堂に立ち寄って本を買っていたのは前回のお話。
それから数年後に、金松堂書店には看板娘のシェルティ犬、ヒナが登場。赤坂の一ツ木通りの界隈で一躍有名になります。
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そのヒナが西家さんたちに見守られながら息をひきとったのは2015年1月5日。
西家さんのお宅にはこの当時いろいろ続いてもいて、数か月前にはお父様、軍隊から持ち帰ったリヤカーを使って神田まで本の仕入れをしていたという先代が他界。
一方では、西家さん一家はお孫さん誕生の時にも重なりました。
ヒナはきっとお役御免とでも感じていたんじゃないのかナ‥‥と振り返ることにされている店主の西家さん。
しかしながら、ペットロスの波は金松堂のお店を知る方々に多く広がりもしました。もともとは赤坂芸者のブロマイド売りが当たって、戦火をこえて100年の金松堂ですがヒナの人気は格別でした。
お店はもともと地下と2階にも売り場がありましたが、いつからか使わなくなって行きます。ところが、ペット斎場の都合で数日間をヒナの亡骸をとどめ置くため2階を使いましたところ、ヒナとの別れを惜しむ弔問客がしばらく続いたほどでした。
2階はその後は未使用が常ですが、例外があります。
この場所で飼い主を求めるネコの譲渡会が開かれます。
動物愛護活動の「ちばわん」によるもので、首都圏各地で取り組まれています。
参考 ちばわん ホームページ https://chibawan.net/
赤坂での譲渡会なので「赤坂ねこ親会」。保護されたネコが飼い主と出会えるチャンスの場にボランティアとして金松堂書店の2階を提供しているものです。飼い主を必要な動物たちがいる現実を伝えるPRに役立てている。
さいしょはヒナの流れもあって犬の譲渡会を考えてみたそうです。
ですが駆け回る犬にはフロアの広さが限られてしまうし、専用設備の準備も必要。何より店の前は都内でも有名な赤坂一ツ木通りという場所柄を考えると困難。しかしネコならば‥‥ということで実現したそうです。
赤坂からヒナは旅立ちましたが、ヒナがここ金松堂書店にいたからこそできた流れですよね。
(了)
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文責・板垣誠一郎
参考文献
・佐藤光房『合本 東京落語地図』朝日文庫、朝日新聞社、1992年
・「政治家橋本龍太郎」編集委員会/編『61人が書き残す政治家 橋本龍太郎』文藝春秋企画出版部、2012年
2019年9月配信開始! 赤坂のヒナ探し
投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部
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