[本郷・東大赤門]ペリカン書房と品川力さんと、本郷の町。(第8回)「貸本と夜店の古本屋」

第8回 貸本と夜店の古本屋

ペリカン書房が戦後の一時期だけ店の一部で貸本業もしていた話を聞きました。

その当時、業界では新刊を貸して商売をする新しいブームが起きていました。乗り気ではなかったらしいのですが、売上のためということで渋々、品川さんも取り入れていたようです。純氏の記憶では横丁界隈の主婦層にも評判だったとか。少年の頃に貸本の回収の代役で近所の家に出向いたことも憶えていらっしゃいました。

ある時、品川力さんの所に貴重な蔵書があることを知って借りに来た研究者の返却の仕方があまりにひどく、品川さんを怒らせたエピソードをご自身が書き残しています。本の扱いには厳しい姿を見せる父・力さんからの影響からか、純氏はページをめくるのにも気を配ってしまうのだそうです。

居間と応接間と勉強部屋を兼ねた室内で品川さんがめくるのは本かスクラップ帳か。(提供・品川純)

貸本と並んで今では珍しい本売りの話を、品川さんの随筆に見つけました。

「夜店の古本屋」と題したエッセーで、品川さん20代そこそこの頃ですから大正の終わりから昭和の初めにかけての東京が舞台。昔の物売りの風景が描かれています。

夜店(よみせ)と聞くとお祭りの屋台を思いますが、かつては東京の各所で縁日だけではなく路上で沢山の夜店が出ており、古本も売り物の一つでありました。

夜店で売られる古本は安売りとは限らず、中には状態の良いものを売る人があって、銀座で出していた古本の夜店に足しげく出向いた思い出を次のように書きとめています。

《一日の仕事を済ませて夕食後の、夜店見物は、冬は冬、夏は夏でそれぞれの季節の趣がある。なんともいえぬのどかなもので、夜店の古本屋の主人公は、みんな人相のいい人たちばかりのような印象を受けた。》

今では見られない古本の夜店という本売りのことは、東京都古書組合の「五十年史」の中で、森鴎外、正岡子規、折口信夫といった著名人が体験した夜店のエピソードをもりこむなど多くの記録を採録してページを割いています。

ちなみにペリカン書房は昭和16年(1941)に組合に加入。五十年史刊行に際してその編纂委員会に品川力さんは参加しています。

こうした夜店でも貸本でも、そうした本売りの話を聞くと、本が娯楽として求められていた熱気が伝わってきて、娯楽の種類が多い今とは格段の違いがあるように思ってしまいます。

私の勤め先がある水道橋から外堀通りを市ヶ谷に向かい、靖国通りに折れ、新宿御苑が近づく花園通りや新宿駅までの通勤の道すがら、古書店が3店、新刊書店2店がこの数年で撤退してしましました。本を読みながら東京を歩くわけではありませんが、本屋に立ち寄るのが好きな者にとって、本売りの場が少なくなっている今を寂しく思います。

(つづく)

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文責・板垣誠一郎

  • 品川力「夜店の古本屋」(東京都古書籍商業協同組合機関誌『古書月報』213号)東京都古書籍商業協同組合、1972年。
  • 『東京古書店組合五十年史』小林静生/編集責任、東京都古書籍商業協同組合/発行、1974年
  • 三瓶恵史『夢と郷愁を売る 夜店』現代史出版会発行、徳間書店発売、1984年

〈2017年3月配信!〉
ペリカン書房と品川力さんと、本郷の町。── その思い出を聞く。

 

投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部

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