第4回 神田での修行と目録販売
(僕が横川さんに仕事柄、本はよく読むものですかと訊ねると)父親にはよく仕入れた本の序文くらいは読みなさいなんて言われたもんだけど、それは父親の時代にはそういう時間も取れたんだろうね、でも僕がこの仕事を始めた頃には仕入れる数がぐっと増えて、仕入れたらすぐ店に並べるなんてしてると、とても読んでるわけにいかないですよ(笑)。
横川さんも父・精一さんの後を継ぐために神田での修業時代があります。もともと本郷生まれ本郷育ちの横川青年は自転車に乗って神田のお店に出向いていたんだそうです。昨年のことでしたか、御茶ノ水橋を自転車を走らせる横川さんをお見かけしました(その時はお名前は存じ上げず、大学堂書店さんだ~って思っただけですが)。
神保町の古書街に本を探しに来る人の中には、大きな企業の図書室の仕入れをする人もあって、たまたま修業先のお店で知り合った方がいました。当時は、企業が自社資料として年鑑や調査資料を集めていたんです。それが縁で、僕が独立すると今度は君のお店を通すよということになることがありました。
あと、「駅弁大学」なんて揶揄されるくらい日本各地に大学が出来はじめた時代ですから、学部を開設するための資料として、とにかく古書の需要はあったわけです。
(店内風景)
父が始めた店舗では、自分は自分で大学堂書店の名前で通信販売を始めました。年に二回か三回、こうした(と、実際の目録を店の奥から持ってきて下さって)目録を三千部は刷って方々にまいていました。大学の研究室から注文が来たりするので、一日電話番が忙しかった。でもそれくらい売れていましたよ。
先代の精一さんは、目録販売にはノータッチだったんだそうです。同じ大学堂書店という屋号を背負いながらも、父と息子とは別々の方法で古書店を営むのですね。
横川さんが発行していた目録の目次を抜粋してみます。
【目次】
人文・社会・歴史・教育関係雑誌類 …1
一般統計・経済・産業統計年報・白書 …3
経済・経営・産業関係学術雑誌バックナンバー …6
経済史・経済学一般・経済学説 …7
翻訳書・外国経済・貿易・アジア経済 …9
成長・価格・変動・物価・景気・独占 …13
財政・金融・貨幣・証券・保険 …14
産業・商工業・中小企業 …17
企業・経営・会計・統計学 …21
銀行史・商工会議所史 …23
農林業・漁業関係全般 …25
中国・支那・満洲・朝鮮関係 …37
歴史(日本史・東洋史・西洋史) …43
地方史・郷土史・文化財調査報告 …51
哲学・思想・科学史・新聞 …69
社会学・政治・社会問題・生活・青少年婦人 …74
教育関係全般・同和教育・部落問題 …81
厚生・社会福祉事業・国勢調査・人口問題 …86
国土開発・都市・住宅・交通運輸 …90
追加(全項目に渉る) …97
上記分類した3899点が収録されていました。
その挨拶文には「毎度お引立下さいまして有難うございます。私共の古書目録六四号をお届け致します。数年来古書の品不足を云われ、それに負けぬ様微力を注いでおります。ささやかな目録ですがどうぞ御通覧の上、前回同様のご注文を賜りたくお願い申し上げます。 昭和六一年一月 大学堂書店」と記されていました。
(つづく)
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文責・板垣誠一郎
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〈2017年2月10日配信!〉 大学堂書店と本郷三丁目交差点─店主・横川泰一さんにきいた思い出ばなし
投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部
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