事務所を一歩出ると、そこは歴史散歩のタネがたくさん見つかる東京の町。今回は文京区・本郷三丁目交差点からほど近い、古書店・大学堂書店にうかがってお店と町の昔話をうかがってきました。
第1回 東大前は本屋さん通り
いま、本郷三丁目の交差点の辺りにいます。いつも人と車の流れがたえません。
「本郷もかねやすまでは江戸の内」。今も昔の面影を残す町。
前方になだらかな「見送り坂と見返り坂」が見えます。そこでちょっとへこんで(脇に入る菊坂ものんびりと曲がってて、つい誘われますがそこは曲がらず)、それからは東京大学にそって本郷通りは伸びています。
本郷通りをはさんで、こちらの歩道はたくさんお店が続いていますね。この歩道沿いに「書店」が今よりもたくさん並んでいたことをご存じですか。多くは古書店。古本屋さんですね。
東大に面して並んでいた書店の屋号を、関係者の記憶をもとにした記録が残されていましたので、まずはご紹介します。
福本、玉屋、島崎、至泉堂、山喜房、銀魚書窟、原広、赤門堂、有斐閣分店、井上、郁文堂、大橋、雨宮、棚沢分店、森井分店、南陽堂、阿部、考古堂、森井、坂田、柴善、大学堂、坂田、大光堂、中屋、松雅堂、向陽堂、昭晃堂、文栄堂、川原、棚沢、大清堂、細貝(などなど。)
通り沿いだけでもこれだけ並んでいた時代があったといいます。東大(戦前までは東京帝国大学)向けの専門書を扱う書店が多かったようです。この記録は『東京古書組合五十年史』(1974年発行)にありました。
「昭和」すらずいぶん前になりましたが、「明治」とか「大正」といったもっと昔のことの話ですが、その当時は露店で古書を扱っていたという記録も残されています。
いまいる本郷三丁目交差点からすぐに桜木神社があります。ここは徳川綱吉の時代からの神社だそうで、縁日にはやはり古書を売る店が出たそうです。となりの本郷薬師の案内板を読めば、「本郷夜市(よみせ)は著名なり。連夜商人露店を張る。毎月八日、十二日、二十二日は薬師の縁日なり。縁日の夜は、殊に雑踏を極むるなり」。
(桜木神社)
これでもかと書店が並んでいた時代には、周辺の西片町、弓町、湯島などに学生たちの「下宿」も数多く建っていました。「森川町」(現・本郷六丁目)と呼ばれた辺りの下宿は、泰明館、蓋平館、神泉館、玉泉館、逸思館、双葉館、菊水館、青雲館、鶴山館、正門館、総州館、太平館、龍生館、有終館、第一富士見館、第二初音館。なかでも「本郷館」は近年まで長い歴史をとどめていました。
西片町は、明治の頃から学者や文人が多く暮らしたことで有名。正岡子規、佐々木信綱、石川啄木、尾崎紅葉、島崎藤村、上田敏、二葉亭四迷、樋口一葉、寺田寅彦、そして夏目漱石‥‥一度はどこかで聞いた名前ばかり。
ふだん歩いていても観光案内の前で足を止めて見ることって少ない。テレビの観光番組で「あ! いつも歩いているところだ~」なんて知ったとたん、見過ごしたことを悔やんでみたりします。
この辺りの昔のことを聞いてみたい‥‥。それなら三丁目にお昼時、息抜きをかねて立ち寄るあのお店はどうだろうと思い立って、ここに来ています。
本郷に古くから暮らし、今は三丁目交差点そばで大学堂書店を営む横川さんに思い出話をうかがうことができました。
(つづく)
→ 次回
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大 学 堂 書 店(本郷三丁目店)
閉店
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さまざまな古書を楽しむお店
気軽に立ち寄れるお店
こちらの看板が目印!
〈参考文献〉
『東京古書店組合五十年史』小林静生/編集責任、東京都古書籍商業協同組合/発行、1974年
『本郷館の半世紀』高橋幹夫/著・発行、2011年
『西片町会創立50周年記念誌』(復刻版)西片町会/編集、発行、2004年
文責・板垣誠一郎
〈2017年2月10日配信!〉 大学堂書店と本郷三丁目交差点─店主・横川泰一さんにきいた思い出ばなし
投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部
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