第2回 デパート古書展と品揃え
横川泰一さんは昭和11年(1936)生まれ。八十年ごしに本郷で暮らしていらっしゃいます。お仕事はずっと古本屋さん。屋号は大学堂書店。
お店は、本郷三丁目交差点にあるカネヤスビル隣のビルの一階で、昭和61年(1986)以来、おかみさんと二人三脚で営んでいます。
先に紹介した東大前の書店の中に、同じ「大学堂」があったのをお気づきでしょうか。
もともとの大学堂書店は、東大正門がみえる通り沿いでした。その場所に現在はマンションが建っています。
数年間、東大正門前と本郷三丁目交差点側に二つお店がありました。長年本郷とつきあいのある方の中には旧店舗をご存じの方もいらっしゃるでしょう。
旧店舗の面影を、画家の桐谷逸夫さんが残しています。
(桐谷逸夫さんの描いた旧店舗)
数年前からのお客の僕は、お昼時に寄っては気まぐれに買ってみたり、仕事の都合で必要な資料を探しに行ったりしています。
品揃えは一般向けでもあり、専門書でもありとにかく豊富です。文学や民俗学、古典、岩波文庫、新書や学術文庫、落語や喜劇、お酒や食べ物、民謡や芸能、最近は東京の郷土関連もよく探します。ほかに僕が目が向かないだけで、野鳥、電車、陶器、辞書、絵本、実用書、古いパンフレットや絵画カタログ、古典籍などなど(他にもあるはず。ご容赦)。
品揃えについてうかがったところ、お話は古書店業界が歩んできた歴史を知る内容であることに気づかされました。それをぜひお伝えしたいのです。
デパートで「古書展」が催されることがありました。「デパート古書展」と呼ばれていました。
その始まりは敗戦後にまでさかのぼります。物不足の時代に、催事企画として会場が求めやすかったのとともに、世間では読み物が渇望されていたのでしょう。
横川さんが参加していた新宿の京王デパートでの古書展は、年明けまだ寒い一月と、暑いさなかの夏場の年二回行われました。販売期間は一週間。
すっごい疲れますよ‥‥と振り返る当時の様子とは。
(デパート古書展でも使用した木箱)
催事用に数千冊(!)のストックを倉庫などに準備しておき、用意した2トン車に乗せて会場へ運搬。前の催事が終わるや夜間にかけて展示の準備。翌朝にはあらためて売り子として出向く一週間。デパート側には「古書部」という役割があって、古書店と会場の橋渡しや会計を担っていたそうです。
会場はデパートの最上階。これは古書展めがけてくるお客を別の階にも誘導したいデパート側の考え。やはり催事によってふだんデパートへ行かない客層を広げる効果があるのでしょう。新しい風が新しい売り上げを呼ぶ!
その際に運搬と棚とを兼ねた木箱は今もお店で現役です。
(つづく)
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〈参考文献〉
『東京古書店組合五十年史』小林静生/編集責任、東京都古書籍商業協同組合/発行、1974年
文責・板垣誠一郎
【文庫・新書・文学・社会・歴史・芸術・趣味の本 古本買入】
大 学 堂 書 店(本郷三丁目店)
閉店
巡る古書籍 拡がる文化
(本をお譲り下さい。)
さまざまな古書を楽しむお店
気軽に立ち寄れるお店
こちらの看板が目印!
〈2017年2月10日配信!〉 大学堂書店と本郷三丁目交差点─店主・横川泰一さんにきいた思い出ばなし
投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部
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