第3回 正門前のお店と先代・精一さん
『東京古書組合五十年史』には、大学堂書店が参加した新宿京王の他に渋谷西武、池袋東武、渋谷東急、銀座松屋、新宿伊勢丹などで行われいたと記録しています。
大規模な古書展の転機は、昭和31年(1956)に日本橋の「白木屋」(現在コレドが営業)で行われた「古書籍大即売会フェーアー」で、広さ240坪の会場に10店の書店(井上書店、巌南堂、小宮山書店、崇文荘、反町弘文荘、高山本店、松村書店、八木書店、山田書店)が一万冊を扱ったのだそうです。
横川さんは京王デパートでのことを振り返りながら、デパート古書展が今の大学堂書店の品揃えの方向性をかためたとおっしゃいます。準備や通いで大変でも、色々なお客さんと顔をあわせながらやりとりをするのが楽しい。デパート古書展にやって来る様々な客層を意識して、大学堂書店もいつしか品揃えの幅がひろがっていったのだそうです。
「はい、○○円。カバーします。はいどうぞ‥‥。(代金を)ちょうだいします。たしかにいただきました。どうもありがとうございます。」
こちらにお話いただきながら、レジに来るお客さんとのやりとりする声は八十歳の年齢を感じさせない若々しさ。決して無愛想な対応はしないところもまた、お店に足を伸ばしたい気にさせますね。
僕は残念ながら東大正門前にあった大学堂を知りません。でもこうしてお話をきくと、同じように取り揃えていたのですか、横川さん? ‥‥いや、向こうは法律書、哲学書、医学書、それと洋書も少し扱っていたのかな‥‥。──あれ? それなら東大前に軒を並べるほかの専門書店に似ていますね。
(東大正門)
──東京市本郷区森川町九〇。
──その後に、東京都文京区本郷六丁目二十四ノ十。
これが大学堂書店の創業店舗があった住所。「東京市」は戦前の呼称です。
開店は昭和7年(1932)。店主は横川精一さん。横川さんのお父さんです。先代・精一さんは神田の老舗、一誠堂で古本屋の修行を積み、結婚とともに、この地で開業したのです。
父親は人付き合いの少ない人でね。(番台に乗せた『東京古書組合五十年史』に目をやりながら)組合からも「横川さんに役員お願いしても無理じゃないか‥‥」なんて思われていたかも知れませんよ。まぁ、一誠堂での修業時代だって風呂に行くのも一人だったみたいだからね。その頃からヘンクツだったみたい。
そうだ、こんなことがありましたよ──。組合の市場に出品した本が「落丁」だとい言われて戻されたことがあるの。それでね、父親は絶対にそんなことはないと言って、今度はハリガネでまいて出品したんだから(笑)。きっとね、人を信用しなくなっちゃってたんだじゃないのかな‥‥。
(つづく)
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〈参考文献〉
『東京古書店組合五十年史』小林静生/編集責任、東京都古書籍商業協同組合/発行、1974年
文責・板垣誠一郎
【文庫・新書・文学・社会・歴史・芸術・趣味の本 古本買入】
大 学 堂 書 店(本郷三丁目店)
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(本をお譲り下さい。)
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こちらの看板が目印!
〈2017年2月10日配信!〉 大学堂書店と本郷三丁目交差点─店主・横川泰一さんにきいた思い出ばなし
投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部
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