〔レポート〕本郷三丁目に大学堂書店があった

きのう4月末日で本郷三丁目駅に近いビルで長く営んでいた古本屋さん大学堂書店の幕が下りました。インターネットのSNSツイッターをきっかけに新聞やテレビの取材が続いたおかげで、遠方から懐かしい顔も店を訪ねて来たと聞きます。(参考 @daigakudo_

閉店を告知するSNSでの発信を見て、私はそれが本当のことなのを思いました。何年前からかビルのテナント更新となる頃に、こんなにヒマじゃあ店を閉めた方がいいワとおかみさんのご挨拶を耳にしては、いやいやもう少しがんばって下さい。そんなお愛想をいったん口には出しても、たしかに客足の少ない風景ばかりでしたから閉店やむなしと勝手なことも胸に抱いたものでした。

私は職場から昼食探しに出向く界隈にここの古本屋さんがありました。やる気の出ない午前中の気晴らしに店のほうへトコトコ歩いてったものです。

ビル一階には大学堂のほかにも婦人服店、お花屋さんが昭和の商売の雰囲気を保っていました。服屋さんが先年ついに看板をおろすときも、マジックで手書きした店主の言葉が書かれた告知をしばらく目にしては私の知っている懐かしさがありました。跡にはタピオカ提供のお店が出ましたがちょうどコロナ禍に社会が様変わりしてしまい、気がついたら食事のお店になっています。

本郷三丁目は駅名にもなっていますが、そもそも区画の名称でもあります。三丁目があるのですから、一丁目や二丁目もあるのでしょうがどこいら辺りかは見当つきません。職場が二丁目なのを今しがた知ったくらいです。冗談のような本当でして、言い訳もできます。

近年、住所の表記は文京区本郷のあとに数字をワン、ツー、スリーと書いておしまい。何丁目、何番地、何号とわざわざ丁目と書いたり、文字入力したりめったにしません。本郷三丁目は区画よりも駅名とその周辺エリアの印象が強いように思います。

大学堂書店が今月からありませんから、本郷三丁目で本を見つけるのもさることながら、昼食探しに出向くついでの気晴らしができる場所が思い浮かびません。

何年前になったかはっきりしませんが、地元密着のスーパーが本郷三丁目にはありました。生鮮食料品と関係雑貨を扱うお店。そこは店主を筆頭に従業員も常連客もよく言葉を交わしていました。店内にはAMラジオの放送がくぐもった音で流れてて、「ババア元気か!」と誰かの街頭ロケが聞こえていました。

そこがある時唐突に店を閉めることになりました。活気は相変わらず。客足が落ちているようでもなく、なぜだろうと思ったものです。

すると店主が常連のおばちゃんに理由を端的に言ってました。実は近所に大手企業の食料品店が入ることになってさ。とても品揃えで敵う相手じゃない。さっさと商売をやめることにした。流れに逆らわないよ。さばさばしていました。振り返ると、本郷で暮らす人の気風を感じるお店であったようにも思います。

本郷三丁目にも都内のどこでも見かける小売店が集まっています。便利でいいことでしょう。でも、たわいもない話をするお店が私のしるかぎり次々となくなっています。スマートに生きる時代に合わせる気のない私は、過ぎ去った記憶をちまちま思い出す癖があります。よくありませんナ。

人はだれかとちょっと喋るだけで気が晴れることが多い。仕事はいつも面白いわけがなく、かといって生活のためには続けねばならぬ・・・。息抜きの先にあった本郷三丁目のあのお店。それが私にとっては大学堂書店。店主ご夫妻でありました。

 

2021年5月2日記
文責・板垣誠一郎

投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部

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