[港区・赤坂]赤坂のヒナ探し 第4回 赤坂の三文役者(1)殿山泰司さんと金松堂

シェットランド・シープドッグ(シェルティ)はお店の看板犬だった「ヒナ」。 写真提供・金松堂書店 西家嗣雄さん
シェットランド・シープドッグ(シェルティ)はお店の看板犬だった「ヒナ」。 写真提供・金松堂書店 西家嗣雄さん

第4回 赤坂の三文役者(1)
殿山泰司さんと金松堂

※この度の台風19号により被災された皆様に心よりお見舞いを申し上げます。


赤坂は国会議事堂はじめ首相官邸に衆・参議員会館と国政を担う人たちの勤め先に近い街。ふだん新聞やラジオにテレビ、インターネットの上に現れるばかりの国政の世界がここからは決して遠くはありません。

なのに赤坂にはしっかりと住宅地も広がります。どういった人たちが住んでいるのか? 私めがどンだけ一ツ木通りや田町、みすじ通りの賑わい絶えない人通りを行ったり来たりしようとも判りっこない。

しかし驚くなかれ、街の本屋さんはそもそも地元の人も観光客も商売相手。赤坂で長く営む金松堂書店。常連の中には有名人も少なからずおります。店主、西家さんが思い出すその名前の中から、赤坂のヒナめいた風景を知るのにぴったりな方をご案内したいと思います。

殿山泰司さん。舞台や映画、テレビで活躍した昭和の俳優。私めも少年時代の記憶の片隅にテレビのドラマや映画放送でその顔がはっきり残っています。しかしその顔とイコール、トノヤマ・タイジの名前が一致したのはことし初めて。とっかかりが金松堂書店でした。

新藤兼人著『三文役者の死 正伝殿山泰司』は書名の通りトノヤマさんの役者人生を知るにかっこうの評伝。監督と役者という立ち場をこえた映画界の戦友どうしの友情を文章の端々から感じます。

本文中にはトノヤマさん自身が書いた文章がいくつも収められており、そのユニークな文体は一度知ったらやみつきになるニオイがプンプンなンであります。

そンで、古書になっているトノヤマさんの本を探します。サッサと手にできるだろうという予想が全く裏切られます。1989年に74才で亡くなったその数年後には生前書かれた本が改めて文庫で発売したのですが、それらですら安くない値が付いています。タハッ!

トノヤマさんは役者だけでなくエッセイストとしても活躍されていたようです。その人気の根強さは没後30年も経つ近年(2018年)にも大庭萱朗編『殿山泰司ベスト・エッセイ』がちくま文庫から新刊として発売されるほどです。

殿山泰司さんの著作
殿山泰司さんの著作

生前の作品には和田誠さんの描いた、何だってかわいらしいオジサンの絵が使われていて、役者トノヤマさんとは別のユニークで過激であたたかいエッセイストとしての形ができあがっていたように感じます。

私めが手にできたエッセーには日記風に本業の役者として撮影地を行ったり来たりしながらの合間にミステリー小説を純に愉しみつつ未知の世界を学ぶ真摯な感想アレコレ、ジャズのライブやレコード試聴の印象アレコレとがくり返されます。

読書に疲れたら赤坂の住まいを出てトコトコと出歩いたりしまして、銀座や新橋、浅草、新宿といった東京の街での友人知人とのアレコレが出てきます。もちろん一ツ木通りの金松堂書店もなじみの本屋として登場。

文庫本はふだんぎのジーパンのポッケに入るンで便利だと書かれていたトノヤマさんですが、西家さんの記憶にはハードカバーの単行本を棚から取って買って行かれた姿が残っているとも聞きました。

ミステリー小説やジャズを愛し、役者を生業としたトノヤマさんが綴った中に顔を出す40年余りまえの赤坂の街。綴る意識の先には常に赤坂の向こうの、庶民の暮らしを左右する権力、国政の中枢が意識されているようにも思えます。(つづく)

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文責・板垣誠一郎

参考文献
・新藤兼人/著『三文役者の死 正伝殿山泰司』岩波書店、同時代ライブラリー、1991年



2019年9月配信開始!
赤坂のヒナ探し

投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部

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