[文京区本郷]大学堂書店と本郷三丁目の交差点(追記)交差点のお昼時

追記 交差点のお昼時

本郷通りと春日通りとが交わる本郷三丁目の交差点に来るのは大ていお昼刻なんですが、ここは常に往来が絶えない印象を持ちます。

交差点には交番があります。ここはかなり古くからあるんじゃないかと思われます。大正時代のこの辺りの思い出が綴られた『大正・本郷の子』の著者、玉川一郎(1905〜1978年)が子どもの時分に三丁目の交番のお巡りが、鼻唄をうたう通行人を注意している様子を記しています。

この当時は交差点に車がめったに通っておらず、かわりに人力車や荷車それに路面電車が走っていました。路面電車の運行を調整する仕事があり、止まれ進めを色別の旗で運転手に知らせる姿から旗振りと呼ばれた男の姿も、本の中に出てきます。

この本を教えて下さったのは大学堂の横川さん。

信号機が電化されているなんて考えたことすらありませんでしたが、たまには昔の知らない風景を今に重ねて見るのは面白いことです。

大正時代まで遡れやしませんが、ボクが本郷で雇ってもらえた2000年の頃には交差点から湯島の方を見ても東京スカイツリーの天に伸びる姿はなく、まだまだ未来の話でありました。

昼飯の買い物先だって変わりました。個人でやっている生鮮食品店がありました。ある時、店先の張り紙で閉店が告知され、店主のおじちゃんがお客に言いました。

「ウチは見切りが早いんだ。やめるとなったらやめる」

その言葉の意味がやがて判った時には、この小さな界隈にコンビニはいわずもがな食品専用スーパーが3店も出店し、食生活を支えています。10%オフのシールを狙ってボクも大変お世話になっています。あの店主の言葉は先を読んでいたわけです。

昼刻に大学堂に行くと、店番を替わる横川ご夫妻の話し声が聞こえるのが楽しみでもあります。

「よくさあ、私らケンカしてるって周りに言われたりするんだけど、短い時間で引き継ぎするためにどうしても仕方ないのよ」

話し好きな女将さんだけになると、お客にたいていこの話をされるんじゃないでしょうか。

ことし2018年3月半ば、ひと頃1000円に届かんとしたキャベツの値段がようやく落ち着いてきた時期でしたが、大学堂へ大手TVクルーが人気タレントのロケーションに選んだことがあったそうです。

「あの時に限ってお客さんが来て下さるんだからね〜」と、ロケのため営業を休止していた嘆き節の女将さん。

交差点のお昼時には、チラシを配り反戦を訴える人たちがいます。ビックイシューを売る人もある。信号待ちの人たちはスマートフォンで占められています。

本郷三丁目近辺から新刊書店が姿を消してしまったのもこの10年余りの間でした。

見切り下手なボクは年々とおいてけぼりになっている感じを肌身にしみて来ています。ジワジワと心細い限りですが、さてどうなりますか。

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文責・板垣誠一郎


参 考

  • 玉川一郎『大正・本郷の子』青蛙房、1977年(新装版、2017年)

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大 学 堂 書 店(本郷三丁目店)
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所在地  東京都文京区本郷2-40-13-109

最寄り駅:東京メトロ丸ノ内線「本郷三丁目駅
都営大江戸線「本郷三丁目駅
都バス 停留所「本郷三丁目駅前

こちらの看板が目印!



〈2017年2月10日配信!〉
大学堂書店と本郷三丁目交差点 ─店主・横川泰一さんにきいた思い出ばなし

投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部

このサイトは、東京ゆかりの本屋さんからうかがった思い出や、地域ゆかりの本や資料からたどりまして、歴史の一場面を思い描きながらこしらえた物語を発信しています。なお、すでにお店の所在地・営業時間は取材時のものです。(東京のむかしと本屋さん編集部)

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