第5回 駒場を通る
河野書店が取り扱う洋書の分野はお店の顔なンでしょう。あいにく洋書棚をじっくり見ておらず勝手なことはいえません。河野さんが綴るブログでは、外国人のお客さんが時折顔を出しているのは、洋書取り扱い店だからこその入りやすさだったりもするのでしょうか。
聞く所では、洋書の取り扱いは開業する時代には競合相手が少なかったそうです。河野書店がスタートした1983年辺りは、本を産業として見た場合には新商品(新刊書)が年間に発売される数(銘柄)がその10年前(1973年)、20年前(1963年)と比べてどんどん伸びており、売上(販売部数)もそれに応じて上昇していました。本が世の中に出回っていたのですから、それを売るお店も多かったはずです。(参考、出版科学研究所『2017年版 出版指標年報』)
インターネットが暮らしに密着した今では想像しにくいことですが、洋書を買うのも難しいことだったそうです。洋書と言っても専門の研究書を揃えることで、大学の研究者からの需要が見込める。
河野さんが開店以来今も驚かされているのは、駒場の町は思いの外、人通りが少ないそうで、東京大学は近く、渋谷の街にも井の頭線でも歩いてでも遠くないのに、店の前の通りはいつも静か。
そう聞くと、ボクは自分が観光者だと痛感します。民藝館や大きな公園と高級住宅地で囲まれた静かな町並みは、観光者からすると羨ましいのですが、ここでお客さんを出迎える立ち場には大変なことですね。
かつて商店会は4つあり、駒場商店連合会、西駒場商店会、駒場バス商店会、東大前商店会と、その往時が偲ばれます。
今は駒場文化推進委員会と銘打ち町の活性化に励む人たちもいるンだよと教えてもらいました。
ところで、1990年代まで東大駒場寮と呼ばれた寮生活があり、中には銭湯帰りに夜お店をのぞきに来ていた学生もいたそうです。風呂上がりにその日に読む本を買うなんてかっこいいなぁ。ある時は寮生からの買い取りの依頼で河野さんが東大駒場寮に出向いて行ったのですが、残念、コミックが多くて河野書店向きではありませんでした。
東大駒場寮廃止に反対する〝廃寮反対ストライキ〟はテレビニュースとして報じられ世間の注目が集まったようです。商店通りのようす、どうだったんでしょうか。
芳賀徹『きのふの空 東大駒場小景集』、高橋健而老『回想の東大駒場寮』など、東大駒場に材をとる当事者の思いが本になって残されています。
東大と縁もゆかりもないボクは、東大の名を聞いただけで恐れ多い気持ちがします。いったい何のすりこみなのでしょうか‥‥。
キャンパス出入り口にさしかかると、「ここから入って行ったら駅前まで近道そうだなぁ」とは内心で思っても、いざ守衛の方が待機するのが判るやそそくさと小走りをしてしまうから情けない。
駒場の町を日常に暮らしていたら、ちょっとご免ヨと門から入って行きたいところでしょうけど、ここいらに住めてもできないな、ボクは。
ある日、守衛の人がそうしたショートカットさんを呼び止めました。「ちょっと、ちょっとぉ。困りますよ。近道じゃないんですからぁ」
相手は買い物袋を自転車カゴに入れ、しかも背に子どもをおんぶしてるお母さん。必死の形相で守衛をジロッとにらみ返す。
「こっちは家事で大変なンです。ここは東大の教養学部でしょう? 少しくらい許容して下さいナ」
・・・なんて人はおりませんヨ。
(つづく)
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文責・板垣誠一郎
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投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部
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