浅草編 第7回 仲見世の本屋さん

第7回 仲見世の本屋さん


月曜の夕方に浅草へ向かいました。雷門前の広場で、観光人力車のお兄さんが浴衣姿の若い娘サンと向き合う光景がありました。両人ともマスク越しではありましたが、目頭や雰囲気で伝わります笑顔のそぼくな温かみ。

ことしのコロナ禍がもたらした社会の不安に日々疲れるばかりですが、オジサンはすっかり心うちで元気をもらいました。

雷門をくぐり仲見世を歩きます。

営業時間は終わりにさしかかっていたらしく、シャッター下ろした所が大半。食べ物を売る店はさいごの呼び込みといった様子。

玩具店の展示の前で立ち止まると、ことしならではのアマビエの姿があります。

ここは浅草寺への参詣道だということをつい忘れてしまうような、不思議な懐かしさを抱きます。ここだけは一年中に渡ってお祭りの日の賑わいがある錯覚がします。ほら、向こうに浴衣姿の子をカメラマンが撮っています。絵になる場所です。

浅草と言えば仲見世の通りをのんびり歩いて見たかった。そのわけは、ここにかつて本屋さんがあったと知ったからなンです。

ずっと観光土産を売る所とばかり思っていましたから、本屋があったと知って、急に仲見世への興味を持ちました。変なことを申し上げれば、本屋がある界隈に安心感を抱くミョーな癖があるのです。

食べ物や飾り物を売るお店が並ぶ仲見世に本屋があったということを頭の片隅に置いて、あらためて歩いて見ます。本も土産物だったのでしょうか? ちょっと違う気もします。土産物のような本があったのでしょうか?

台東区立中央図書館の浅草文庫コーナーの蔵書に、仲見世商店会の発行した『浅草仲見世のあゆみ』があります。

そこには昭和46年(1971)10月と昭和初期の店舗の一覧が出ています。

1971年の仲見世には、雷門を背にして右手(東側)の一件目に清水屋書店サン、その22軒先に浦島堂サン。どちらも書籍取り扱いとあります。左手(西側)の8軒目は玉森堂サンの屋号で、こちらは書籍・雑誌の取り扱い。昭和初期では玉森堂サンは唐辛子と人形を売るお店と並んでいたようです。

浅草の詩人とも称された作家の久保田万太郎(小説家、劇作家、俳人、演出家として活躍 1889~1963)による短編「みぞれ」。作品の冒頭で「唐辛子屋の隣の本屋」を訪れる青年たちが文芸誌『新小説』総合誌『中央公論』の発売を店主にたずねるシーンがあります。ここはおそらく玉森堂サンではないでしょうか。さておき、雑誌の発売を聞く描写の様子からは、土産物屋さんにというより日常的な本屋さんといった印象を受けます。

記念碑 久保田万太郎誕生の地
記念碑 久保田万太郎誕生の地(台東区雷門1丁目)

今の浅草には浅草はじめ江戸の魅力を伝える本屋さんがあります。鉄道と直結する浅草松屋と同じビル(商業施設エキミセ 6階)にくまざわ書店、東京有数の興行街だった「浅草六区」の名を伝える浅草ROXビル4階にリブロ。ともに歌舞伎や落語はじめ江戸のエンターテインメントを盛り上げる選書コーナーがそれぞれに作られています。

しかしどちらもデパートの中の先にありましてアクセスがよくない。残念です。書店のがんばりがもったいない。それくらい充実しています。

硬軟織り交ぜた読み物やビジュアルブックには、観光客が期待している浅草の姿があるンだと思います。もっともっと浅草歩きを面白くさせますヨ。くまざわ書店、リブロそれぞれの選書コーナーだけでも仲見世に出たらどんなに面白いか。

浅草観光ルートにぜひ本屋さんを入れるご一考を! って、誰に願えばいいのだか。

(つづく)

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文責・板垣誠一郎


2020年8月配信開始 東京のむかしと本屋さん 浅草編
・第1回 夕刻の日差し第2回 二の橋書店の目録『戦塵冊』第3回 二の橋書店の目録『戦塵冊』続第4回 二の橋書店の目録『戦塵冊』続々第5回 二の橋書店の目録『戦塵冊』結び第6回 浅草文庫第7回 仲見世の本屋さん第8回 木目込人形第9回 座売りの本屋第10回 生活に囲まれた一角

 

投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部

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