[レポート] 御茶ノ水駅の新改札口と古本屋さん

新型コロナウイルス感染症によって社会が一変してしまった2020年4月の御茶ノ水駅の新改札口と、三進堂書店のビル(撮影・板垣)

お茶の水駅に新しく改札口が開かれました。そのすぐそばに位置した古本屋が、まるで交代するかのように先日店を閉じました。

シャッターに貼られた閉店の案内文に店主が昨年他界していたことが記されていて、閉店までのしばらくは身内の方によって開けられていたのを知りました。

三進堂書店閉店のお知らせ案内文。2020年4月(撮影・板垣)

駅のある通りはお茶の水橋と聖橋との間を結ぶ直線で、ここに茗渓通りと名がつくのは、古くは蛍狩りや江戸の花火を目当てにした観光スポットでもあった歴史があるようです。

時は移ろい、駅を通勤に使う者にとっては朝、昼、晩といつでも食事に困らないバラエティ豊かなお店が集まる一帯でありまして、早朝は残飯ゴミ目当てのカラス連も目立ちます。

崖っぷちのような場所にある駅なのでホームはもともと限られています。そこへJR中央線快速電車、総武線・中央線各駅電車が絶え間なく停車。近くに地下鉄の丸ノ内線、千代田線も別に駅をかまえています。

御茶ノ水駅のある千代田区駿河台は、大病院へのアクセスポイントでもある。そのためにも駅の安全と利用しやすさの改良工事が近年は続けられていまして、神田川をまたぐ特設の工事現場はすでに新名所とでも言えそうで、聖橋の側からしばしば見てしまうもンです。

 ホームが広がっているように見えますが、下は神田川です。(撮影・板垣)

 

駅前では丸善が洋書や文具、カバンなどのワゴン販売を催し、募金の呼び声が聞こえ、ランチ探しの学生や勤め人の往来で活気があります。ビルディング乱立の時流を横目にニコライ堂も駅からすぐで、スケッチの人も見かけます。

にぎわいに紛れ込んで古本屋さんの前にさしかかれば、ワゴンに押し詰められた日焼けした安売りのタイトル見たさについ足をとめたもの。探してた「下巻」がなんと100円でラッキー! 引っこ抜いたらゴワッと反った状態。どこかで水にぬれた一品。だから安いわけです。形状にこだわるか、内容にこだわるのかッ!と自問し、出した答えで番台に向かいましたっけ。

お店の出入口はUの字を逆さまにした2つで、奥に店主のひかえる番台。昔ながらの本屋さんでした。反対側の棚を見るには番台の前を横切るか、一度外に出るしかありません。

かつて店主のおじちゃんの頃ですが、入るなりペチッ、ペチッと音がする。

どうやらおじちゃんが番台に何かを当てているンです。将棋でも指すような響き。直視したことはないのですが、文庫本かメモ帳でも当てていたのでしょうか・・・。

ラジオもBGMもかかっていない。聞こえるのは、お茶の水の茗渓通りのにぎわいと、下の方からするJRの案内アナウンス。あとは、

一、二、ペチッ。

三、四、ペチッ。

速くはない。けど、途絶えない。

耳にするや、こちらは不安でした。店主は機嫌でも悪いのかしらン。たしかし冷やかし客ではありました・・・。

棚の中には、特にかなり年季の入っていた文庫には腰巻が付けられ、手書きの書名と値段が達筆で示されていました。思い返せば、昭和の古本屋の情景でした。

ある時、一冊を番台に持っていくと、おつりと一緒に言われたことがあります。

「古本は、安いネ」

こちらにはうかがい知れない店主だけの思い入れのこもった言い方だったのをいつまで経っても忘れられません。(了)

文責・板垣誠一郎

先日までのお茶の水駅・旧聖橋改札口

投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部

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