連載◎[水道橋/神田三崎町]神田三崎町と有文堂書店の100年。(第6回)大きくなってもチビ。なんつッてネ。

第6回
大きくなってもチビ。なんつッてネ。

有文堂書店の前から、前は旭屋書店があったビルが見える‥‥なんて申し上げましたが、訂正がございまして、実は見えません。お店の前にヤツデの木がございました。タハッ。

長い望遠鏡のやつで、葉の隙間からなら見える・・・かなぁ。

そのヤツデの足もと。アスファルト道に見えるのが申しわけ程度の土でございます。有文堂の女将さんが、たまに猫のくれる肥料、そいつをあげているんだそうで。それでかどうだか、ヤツデもすくすく伸びるらしい。

ヤツデよりも伸びていたのが、隣のヤナギ。ぐんぐん育ったんですが、ある日誰かに頭を切られたっていう話です。ひどいことするもンですよ。

で、猫がね、有文堂書店には代々住んでいる。営業中、店は1日開け放しですからね。なんたって戸がありません、昔ながらの本屋ですから(「夏は暖房、冬冷房」)。それで人も来れば猫も来る。かわいいじゃないか、ウチへおいで‥‥とこうなったそうで。

「猫ッかわいがりなんて言い方、この人のためにあるんですヨ」って、女将さんが木下さんを評しますでしょ。すると木下さんがすぐに返すわけですよ。

「なァに、女、かこえないからよ」ってね。どこか誇らしげ。

いま一緒に暮らしている猫は、チビって呼んでるそうですが。

「大きくなってもチビ。なんつッてネ」とおまけの一言。

店横の小道入ると、わりと静かなんで、夕暮れ時に勝手口の前で猫の休んでいるのを見たことありましたが、チビちゃんだったのか。どうも客の来る店内には姿見せないそうで‥‥。

女将さんに抱えられた「チビ」(撮影 板垣)

 

横丁を選んで歩くと、神田三崎町に昭和の雰囲気残す建物が見つかりますナ。

その昔は夕飯の支度でもお店数軒はしごしたら、野菜も肉も魚も総菜も揃ったって言うんですから、猫だってもっと住んでいられる庶民的な「町」だったんでございましょう。

いまは、界隈に食品専門スーパーやコンビニこそあれ、だいぶ離れた万世橋近くの食料品店まで出向くこともあるそうです。行くのも人が多くて大変でしょうね。神田川を泳げばすぐだけど。

三崎町といえば、後楽園からの歓声があり、大学生の活気がある。JRや地下鉄もあり、タクシーもバスも走っています。どちらかっていうとそういったものって、遠方からくる私どものためにあるって気がしてきますョ。

皇居も近い、東京のど真ん中での暮らし。それを象徴する話があります。

先代の木下長吉さんがそばに二号店を営んでいたそうです。それができなくなってしまった。なぜか。

日本がアメリカ相手に戦争をしていた時代です。

三崎町含め東京の町からも男たちが兵隊にとられて行ったのです。

『東京古書店組合五十年史』が次のように語っています。

(昭和)十八年の学徒応召、出征はなんといっても大きな衝撃を国民に与えた。店主や店員の召集も相次ぎ、当時の世相を反映した次のような広告が目につく、「至急 書店倉庫又は事務所向き五坪、電車通り、応徴の為理解ある方の利用を望む。詳細神田区三崎町大成中学前邦文堂書店へ御照会乞ふ」。

この昭和18年は、木下さんは小学校に入った時でした。当時、町から男手が減り、木下さんたち子供たちの楽しみだった縁日ができなくなった記憶を、話して下さったことがありました。

そしてついに、この神田三崎町の上空にまで爆弾抱えたB29が何機も飛んできます。

昭和19年(1944) 1月30日
昭和20年(1945) 2月25日
昭和20年(1945) 4月13日〜14日
昭和20年(1945) 5月25日〜26日

これは三崎町に空襲があった日付です。5月の折には皇居宮殿にまで及んだようです。

空襲警報が鳴って周辺の人たちが逃げ込んだ防空壕は、大通りを挟んだビルの地下だったそうです。そこには戦後、別のビルが建ち、私も知っている旭屋書店が長くあり、現在は洋服の青山がリクルート学生たちを出迎えています。

もし有文堂書店を訪れることができたら、積まれた本はもちろん、足もとも見てほしいと思います。書棚を置いた土台は、空襲をくぐりぬけた昔のまま。床はでこぼことしています。人生そのものです。

グーグルマップ → https://goo.gl/maps/nULu3n4kP1n

つづく

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参考文献:

  • 『東京古書店組合五十年史』小林静生/編集責任、東京都古書籍商業協同組合/発行、1974年
  • 『明治生れの町 神田三崎町』鈴木理生/著、青蛙房、1978年

文責・板垣誠一郎

〈2017年5月配信!〉 
神田三崎町と有文堂書店の100年。 ── 店主・木下長次郎さんにきいた思い出ばなし。

投稿者: 東京のむかしと本屋さん編集部

「東京のむかしと本屋さん」編集部 メール tokyomukashi@gmail.com